第50話

最上階へと続く階段をひたすら昇っていくにつれ、他の生徒の姿が見当たらなくなる。


 最上階にあるのは、図書室の他に、昨今の少子化に伴って使われなくなった空き教室とトイレくらいだ。ごくたまに用務員のおじさんが掃除をしているらしいのだが、ドアの隙間から漂ってくる埃くさい空気は、やはりたまらなかった。


 早く図書室に行こうと、空き教室やトイレのある方向に背中を向けた僕だったが、その時、いきなり誰かに腕を掴まれた。その誰かは、すぐに分かった。


「おい、清水」


 居心地の悪さが一気に背筋を走る。それでも反射的につい振り返ってしまえば、嫌でも真鍋の顔が目に入った。


 体格に似合っていると言うべきか、真鍋が僕の腕を掴む力は相当のものだ。「ちょっと付き合えよ」と僕を引っ張る手を払おうとしても、びくともしない。僕は為す術なく、ズルズルと引きずられるようにして空き教室の中まで連れてこられた。


「いきなり何するんだ!」


 机も椅子もまばらに置いてある空き教室の真ん中まで僕を引きずると、ようやく真鍋は腕を離した。そして、いつものようにニヤリとした笑みを浮かべてこちらを見るので、僕は二、三歩ほど後ずさり、彼との距離を広げた。


「僕に、何の用だ」

「ふん。まあ、そう構えんなって。お前にとってもいい話をするんだからさ」


 真鍋は埃の被った教壇に背中を預けるような体勢を取り、相変わらずだらしなく着崩したブレザーの懐から、煙草とライターを取り出す。そして僕が驚いて息を飲んでいる間に、素早く煙草を咥え、火を点けてしまった。


 深々と吸い込んだ煙を空中に放って、真鍋は言った。


「とりあえずお前、今から俺と組めよ」


 訳が分からず、僕は「えっ…」と間抜けな声をあげるしかなかった。

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