第49話



 入学から、十日ほどが過ぎた。


 徐々に授業内容も本格化してきて、僕は充実した高校生活を送り始めている。唯一不満があるとすれば、真鍋の薄気味悪い視線だった。


 最初は席が隣なのだから、単に彼の視界に自然と入ってしまうんだろうと考え、気にも留めていなかった。


 だが、ふとした拍子に窓側に顔を向けた時、真鍋としっかり目が合った。そして、ニヤリと笑われた。


 瞬時に、居心地の悪さを感じた。あれから全くと言っていいほどしゃべっていないのに、真鍋が僕を見る理由が分からない。あんなふうに、不気味に笑ってくる事も…。


 たったそれだけで、僕は真鍋太一という人間が嫌いになった。授業中にずっと感じる、彼の視線がたまらなく嫌になっていった。




 ある日の昼休みの事だった。


 昼食の弁当を食べ終えた僕は、昼休みを図書室で過ごそうと思い、教室を出た。


 この高校の図書室には何度か足を運んできたが、校舎最上階の一番東端にある為か、それとも生徒達の関心が薄いせいなのか、その利用頻度はそう高くない。


 どの日に行っても、貸出係の当番を受け持つ図書委員の生徒か司書の先生がカウンターに鎮座しているだけで、本を選んでいる者の数を数える事なんて片手で足りた。


 そんな静かな場所が僕のお気に入りの場所だった。ここなら誰にも邪魔されずに予習や復習ができる。


 父さんは無理するななんて言ってくれたけど、やはり僕は医者になりたい。そして、父さんを助けたい――。


 その為にも、三年後には必ず第一志望の医大に現役合格していなければ。僕は早足で図書室へと向かった。

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