第48話

真鍋太一への第一印象は、とにかく「嫌な奴」という一言に尽きた。


 大抵の人間はある程度の付き合いがあったら、第一印象とはまた別の違った面が見えてきたりするものだと思っていたが、この男に対しては、それは全く当てはまらなかった。


 そもそも僕の名前を聞いてきた時の真鍋の格好は、ブレザーのネクタイをだらしないほどに緩ませ、上着もズボンも着崩していて、腰元では派手な柄の下着が見え隠れしていた。


 人より発育が早かったのか、一般の男子高校生の平均程度の体格でしかない僕の身体より一回り大きくてがっしりとしているのだが、僕には真鍋のそれがたくましくて立派だとはどうしても思えない。それどころか、彼を嫌だと思う印象が心の中でますます濃くなっていった。


「おい、無視してんじゃねえよ」


 すぐに答えない僕に焦れたのか、真鍋は少しイラついたような表情と声色で、もう一度話しかけてきた。僕は慌てて答える。


「あ…清水浩介、だけど」

「ふぅん、清水ね」


 真鍋がニヤッと笑う。短髪と言っていいほどの髪をワックスで固めているのか、その一本一本が天井に向かって伸びていた。


「お前、頭良さそうだなぁ」

「そんな事ないよ」

「まあ隣同士、よろしく頼むわ」


 そう言って真鍋は席を立ち、教壇の方に集まっている何人かの男子生徒達の所へ下品な笑い声を出しながら行ってしまった。


 彼とは仲良くなれない、瞬時にそう思った。明らかに人間としてのタイプが違い過ぎるのだ。


 僕はこれ以上、真鍋と関わるまいと心に誓った。

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