第45話

でも、もがけばもがくほど絡み付いてくる蜘蛛の糸のように、僕の不調は決して改善されなかった。


 何度か模試を繰り返し受けてはみたものの、第一志望の高校への合格圏内の点数まで、どうしてもあと一歩届かない。睡眠時間を大幅に削ってどれだけ勉強に費やしても、どうしても偏差値は上がらなかった。


 二学期の終わりが来た。時期的には、もうギリギリのタイミング。早く願書を提出しないと、第一志望も何もない。でも、本来あるはずだった実力が戻ってこない…。


 願書提出期限三日前の深夜の事だった。


 いつものように自室で特に成績の下がった数学の勉強をしていたら、ふいにドアをノックする音が聞こえてきた。母か姉が頼んでいた夜食を持ってきてくれたのだろうかと思って、反射的に「はい」と返事をすると、返ってきたのは父の声だった。


「浩介、ちょっといいか?」


 瞬時にびくっと身体が震え、「い、いいよ…」と声が上擦ってしまった。それに気付いたのか気付いていないのか、父は少し遠慮気味な表情でドアを開け、静かに僕の部屋に入ってきた。


「すまないな、こんな時間に…邪魔だったか?」

「ううん、全然。どうしたの、父さん?」


 できるだけ笑顔を見せたつもりだったが、この頃の僕の顔には終始焦りの色が浮き彫りになっていたから、きっと不自然極まりなかっただろう。


 そんな僕の顔を見て、父は少し目を伏せて言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る