第44話
入学した高校は、第一志望のところではなかった。
受験勉強の正念場となるはずである中学三年の二学期頃、それまで上々だった僕の成績は少し下降気味となり、なかなか本来の調子を取り戻す事ができなかった。
それを懸念して、担任の教師が志望校を変えてみないかと余計な提案をしてきたのが、全ての間違いの始まりだったと思う。
当然、僕は嫌だと突っぱねた。
医者になると決めたあの日から、僕にとって最大の目標は、父の背中だった。
詳しい事情は全く知らないが、高校を途中退学せざるをえなかった父は、それから年中ほとんど休まず、二十歳を迎えるまではいくつものバイトを掛け持ちして、昼夜問わずがむしゃらに働いていた。
その疲労がたたってある日倒れてしまい、収容先の救急病院で看護師をしていた母と出会ったという。
数年後に結婚した二人の元に姉と僕が授かり、新たな家族の長となった父は、これまで以上にがむしゃらに働いて資金を貯め、とうとう会社を興した。そして、ご年配の人や身体が不自由な人達のお役に立とうと、また頑張っている。
僕は、そんな父をもっと大きな力で支えたいと思った。医者になって、父の元を頼らざるしかない人達を助ける事ができれば、それが何よりの父の助けになると信じて。
その為にも、自分が予定しているレールの上を踏み外したくはなかった。何としても第一志望の高校に入学し、そこからさらに第一志望の医大を目指さなくてはならなかったのだ。
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