第42話
「じゃあもう一度聞くけど、例のナイフは自分の身を守るつもりで持って行ってた訳?」
狩野が昨日からずっと変わらない穏やかな口調で、もう何回目かも分からなくなった質問をまた繰り返す。
ああ、まだ分かってくれてないのか。どうしてこうも面倒な奴らなんだ。どうして皆、父のように賢くなく、気も回らないのか。少しは僕の父さんを見習ってくれよ。
僕はわざと大げさに溜め息をつく。すると狩野は、ははっと苦笑を漏らしながら「頼むよ」と困ったように言った。
「大事な事なんだ。君の主張が正しいものかどうかの、瀬戸際なんだよ?」
「……」
「もし君の言ってる事が本当に正しいなら、俺達は全力で味方になる。だから、ちょっとでもおかしいところがあるなら確認しなきゃいけないし」
「おかしいところ?どこにそんなものが…」
「被害者の真鍋太一(まなべたいち)君は、君がいきなり刺してきたと言って倒れたらしいからね」
真鍋太一――。
その名前を聞いた途端、僕の激情は一気に沸点まで達し、かあっと頭の芯まで熱くなるのを感じた。
あいつ、僕がこんな所に閉じ込められるような原因を作っといて、なおかつ自分だけ被害者ですと言わんばかりの証言をしたのか!
やっぱりあいつは最低だ。社会に必要のない悪だ。もっと深く刺せば良かったんだ…。
「だったら、もう一回最初から話しますよ」
もう一度大げさに溜め息をついた。もっときちんと言ってやらないと、この刑事に僕の主張は決して届かないだろうと思いながら。
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