第三章 -清水浩介-
第41話
「僕は、何も悪くありません」
生まれて初めて入った取調室というものは、刑事ドラマで見た事がある通り、狭苦しくて殺風景で、コンクリート剥き出しの壁は圧迫感も伴って本当に居心地が悪い。
それでも、僕は机を挟んでこちらをじっと窺い見ている刑事に言わなければならなかった。
僕の主張を、僕の正当性を。そして、僕の無実を――。
僕は畳みかけるようにして、刑事に言った。
「重ねて言いますが、僕は何も悪くない。だって、ああしなかったら、やられていたのは僕の方だったんだから。僕は正当防衛を主張します」
「そうは言うけどな、君…」
僕の主張の言葉に対して呆れているのか、それとも困り果てているのか…。どっちとも取れるような曖昧な表情を浮かべながら、刑事は一度言葉を切る。
昨日、初めて顔を合わせたこの刑事は、自分の事を狩野と名乗った。ぱっと見る限り、年齢は四十代って感じで、僕の父とそう変わらないようだ。
「俺が君を取り調べる事になったから」
そう言って調書の書類とボールペンを机の上に置きながらパイプ椅子に腰かけてきた狩野って人は、最初は本当に刑事には見えなかった。
何というか迫力がない。何人か他の刑事も取調室に入ってきて、僕の様子をじろじろと見たり彼の代わりに乱暴な口調で問い詰めてきたりしていったが、狩野にはそれが一切ない。
まるで、どこかの喫茶店で談笑でもしているかのような穏やかな表情のまま、僕と話そうとしていた。
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