第40話
放課後。いつもなら城ノ内の家まで行く支度をしている頃なのに、僕は職員室の窓から見える風景をぼんやりと眺めていた。
窓の向こうには、帰路を辿る部活動に入っていない生徒達が校門をくぐっていく。その中には受験勉強の対策の為にそのまま予備校に向かおうとする三年生も何人かいた。
ふと気付くと、そこに斉藤の姿があった。
五日前のあのような言動を見さえしなければ、今でも信じられない思いだ。今、校門をくぐろうとしている斉藤は、いつもクラスの中で見かけるように、大人びた容姿に相当する皆のリーダー的存在そのままなのに…。
そこまで考えた時、ふいに斉藤がこちらを振り返った。まるで僕の思いが伝わったかのように、しっかりと目が合う。そして、それをあざ笑うかのように、にいっと口の両端を持ち上げた。
それはほんの一瞬の出来事だった。それなのに、僕の背中にまた何かが走る。
僕は慌てて窓から離れ、自分の机に寄りかかった。
どうする、どうすればいい。どうすれば城ノ内も斉藤も…。
分からない、分からない、分からない!いや、それどころか僕は、僕は…。
何かよく分からないものが胸の奥から喉へとせり上がってきて、吐いてしまいそうだ。それに相乗りして、誰かに頼りたいという情けない思いまでこみ上げてくる。
最初に幸子の顔が頭をよぎったが、すぐに打ち消した。ダメだ。仮にも警察関係者の彼女に話したら、きっとあれこれ聞かれた挙げ句に二の腕の傷の事も知られてしまう。そうしたら、学校の誰かに話すより大変な事態へと進んでしまうかもしれない。
では、いったい誰に…。
そんなふうに考えていた僕の手は、いつの間にか机の上の携帯電話を握っていた。電話をかけた先は、しばらく会っていない透明人間だった。
「私は、未だに彼を理解していないのかもしれない。あの時の彼の怒りや憎しみや悲しみを、何一つ…」
そして僕は、透明人間だった父の話を聞く事になる――。
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