第35話

「悪魔!あんたは悪魔よ!!」

「じゃあ城ノ内。さしずめあんたは悪魔の私に気に入られちゃった生贄ってとこよね。ぴったりじゃん♪これからも、ずっと…ね?」

「私は…あんたのおもちゃじゃない!!」


 城ノ内は空いていた右足で僕の向こうずねを強く蹴ってきた。突然やってくる鈍い痛みに、僕の手の力は一気に衰え、彼女の手を離してしまう。


 その隙に城ノ内は僕の身体をすり抜け、再び斉藤に襲いかかろうとする。僕は止めようと城ノ内の肩に右腕を伸ばした。必死だった。


「城ノ内ぃ!」

「…っ、やだあぁぁ~!!」


 僕が抑え付けようとする気配を背中で感じたのか、城ノ内は振り向きざま、カッターナイフを持っていた手で僕の伸ばした右腕を振り払う。その刹那、二の腕の外側に裂けるような熱い痛みが迸った。


「えっ…?」

「…っ…~~~~~~!!」


 訳が分からないまま、それでも叫び声を押し殺してその場に蹲る。


 反射的に右腕を抑えた左手はみるみるうちに真っ赤に染まっていくし、抑えきれない滴がぽたぽたと床に滴っていく。


 ゆっくりと顔を上げてみれば、城ノ内が持っていたカッターナイフの先端にも同じ赤い滴と、わずかながら僕のYシャツの繊維が付いていた。それを見てようやく僕は、そのカッターナイフに切られたんだと理解できた。

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