第30話
それから一週間ほどは、何もなかったように思えた。
僕は三年A組の生徒全員の顔と名前を覚え、彼らの希望する進路などを把握するのにとにかく必死で、夢中だった。
二年生クラスから持ち上がってきた生徒達は、もうすでにいくつかのグループに分かれて和気あいあいと毎日を過ごしている。誰かが一人になるという様子もなかった。
あれから、城ノ内とも普通に接していた。クラス委員長である訳だから何かと雑用を頼んでしまう事が多かったが、彼女は嫌な顔一つせずに「はい」と二つ返事で引き受けてくれる。あまり笑ったところを見た事がないが、本当はいい子なんだなと思えた。
そんな彼女の側には、いつも一人の女子がいた。廊下側から三列目、一番後ろの席に座る、コンビニで見かけた一人目の子が。
その子の名前は斉藤智香(さいとうともか)といった。
城ノ内がクラスを静かになだめてまとめる委員長なら、斉藤は逆にクラスの皆を盛り上げるリーダー的存在というべきか。
大人びた見た目とはっきりとした物言いが相乗効果をもたらしているのか、ほんの些細な話題でも誰もが斉藤の言う事を最優先にしている節があった。
そういう事なら、どうして斉藤が委員長ではないのだろうと一度問いかけた事がある。それが後々に繋がる事になるとも知らない間抜けな僕の質問に、斉藤は一瞬苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた後、ふっと笑って答えた。
「あの子の方が、成績が良かったから。今まで一度も勝った事ないの」
斉藤はいつも城ノ内の側にいた。僕はその時の二人がどんな表情をしていたかなんて、全く知らなかった。
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