第27話



 新年度の一学期が始まり、僕は際限なく膨れ上がった緊張感を伴いながら校舎の廊下を歩いていた。


 担当する三年A組の生徒数は男子十四名女子十六名の計三十名。この三十人の人生の節目である大事な一年間を、僕が責任を持って担当する。そう思えば緊張はするものの、やはり心身共に引き締まる思いもあった。


 校舎三階の一番東端にある教室が、三年A組だ。そのドアの前まで来ると、僕は一度大きく息を吸い込んで、吐き出すのと同時にドアを開けた。


「おはよう!」


 自分でもちょっと驚くぐらいの大きな声で挨拶をする。すると、それまで騒がしかった教室の中がピタリと静まり、二年生クラスからそのまま持ち上がりとなった生徒達が一斉に僕を見つめた。


 異様なほどにシンクロした視線の数々に圧倒されそうになる。それでも何とか気を奮い立たせて、僕は教壇まで進んだ。


 生徒達が全員席に着いたのを確認してから、僕は言った。


「えっと…始業式でも紹介されましたが、今日からこのクラスの担任になる神保高志です。どうぞよろしく…これからホームルームするけど、今日の号令は二年の時にクラス委員長だった子にお願いするよ。誰だったかな?」


 僕は持っていた出席簿をめくりながら言葉を続ける。出席番号順に並べられた生徒の氏名の横に、一人だけ星のマークが付いているものがあった。このマークが付いているのが、委員長だったという訳だ。


「ああ、城ノ内 灯(じょうのうちあかり)か。じゃあ城ノ内、頼む…」


 僕の言葉に窓際の一番前に座っていた小柄な女子生徒が「はい…」とやたらか細い声で返事しながら立ち上がるのが目の端に留まる。


 どこかで聞いた事があるような声だと思って見てみれば…驚いた。城ノ内 灯は、先日コンビニで会った四人目の女の子だったからだ。


 城ノ内も僕に気付いて、あの時のように顔を青くする。よく見れば、廊下側から三列目の一番最後にある席に、あの背が高くて大人びた顔の一人目の女の子も座っていた。

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