第26話

「ヤバい、行くよっ」


 一人目の、背が高くて大人びた顔の子が二人目と三人目にそう呼び掛け、一目散にコンビニの自動ドアを潜り抜けていく。呼ばれた二人も慌てて後を負い、そこには四人目の子だけが残された。


 今にも涙がこぼれ落ちそうな丸まった両目の上にメガネを掛けている彼女は、掴んでいた一口チョコを一個ずつポトポトと床に落としていく。その手の震えが全身に達して、ひどく青ざめた顔で僕を見つめていた。


「あ…あ…」


 店内の有線放送にかき消されてしまいそうなほどのか細い声で、言葉にならない言葉を漏らす。僕を見るその表情は、明らかに怯えていた。


 どうやら、僕が自分の通う学校の教師だとまだ気付いてないようなので、僕はまずは安心させようと四人目の子に何歩か近付いた。


「えっと…僕は神保っていって、君の学校の教師で…」

「え…」

「とにかく話を聞くから…て、おいっ!」


 僕が教師だと言った途端、彼女はびくりと肩を震わせ、次の瞬間には走り出していた。持っていた残りの一口チョコも投げ捨て、僕が止める暇もなく三人の子たちと同じように自動ドアをくぐり、あっという間に見えなくなった。


 追いかける事もできず、僕はただ呆然とするしかなかった。

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