第23話

春になって、三年生のクラスの担任を務める事になった。


 二人きりで出かけるようになった例の居酒屋でそう告げると、僕の二倍はピッチが早いくせに全く酔った気配を見せない幸子は「おめでとう、高志」と心底喜んでくれた。


「何だか自分の事みたいに嬉しい。高志の真面目ぶりが認められたのよ」

「そんな事ないよ。受験を控えてる子供達の担任なんて初めてなんだから、ちょっとプレッシャーだしね」

「大丈夫よぉ。私を見てごらんなさい、こんな女が婦警さんやってるんだから」


 そう言って、幸子はまた生ビールがなみなみと入っている大ジョッキを傾け、一気飲みする。そして口に真っ白い泡をつけたまま「だから、本当に嬉しい!」と子供のように笑ってくれる彼女が本当に可愛らしいと思った。


 午後十一時を回る頃に居酒屋を出た。繁華街のアーケードの中を進み、タクシーが拾える所まで幸子を送る。明日は早出だと言っていたから今日はさほど多くは飲ませないようにと思っていたのに、幸子は相変わらずしっかりとした足取りと口調で「またね、高志」と手を振ってタクシーに乗り込んでいく。


 彼女の乗せたタクシーが見えなくなるまで見送っていた僕の両足の方がふらついている。それがちょっとみっともなく思えて、僕は小さく苦笑した。

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