第21話

そんなある日の事。同じ中学校で働く同期の男性教師に誘われて、洒落た居酒屋で飲む事となった。だが、彼と一緒に指定席の前まで進んだ時、すぐに嵌められたと思った。


「…帰る」

「まあまあ、待てよ神保。お前がいないと始まらないんだから」


 団体用の指定席に先に座っているのが先輩の教師達だけならまだ良かったが、テーブルを挟んで彼らの向かいにいたのは数人の同世代の女性達。これはいわゆる、合コンの席だ。


「こんな所を父兄の誰かに見られたらどうするんだ?それに僕はこういうのは好きじゃない」

「あのな、俺達教師も人間で男なの。出会いを求めて何が悪い。それにお前は考えが堅過ぎて、かえって教師らしくない。だから連れてきてやったんだよ。ちょっとは人間性を身につけろ」


 彼はそう言いながら、僕を強引に席の一番端に座らせて、そのまま進行役に徹した。


 僕はとりあえず用意された生ビールを半分ほど飲み、聞き捨てならない彼の言葉を思い出してはムッとしていた。


 教師らしくない…?何て失礼な奴だ。今まで僕が担当したクラスの生徒達は皆いい子達ばかりで、何の問題も起こしていない。成績だっていつも上々だ。君のクラスの方が成績悪いし、おまけに不登校の子もいるじゃないか。


 …なんて言える訳もなく、消化しきれない苛立ちがグルグルと渦巻いていた時、急に手の中のジョッキが消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る