第二章 -神保高志-
第20話
三十年近く生きてきた僕の人生の中で、父に関われた時間はとても短くて、それ以上に希薄なものだ。世の中には父親の顔も名前も知らないという人もいるだろうが、僕の場合、いつも中途半端に現れたりいなかったりした彼の存在は透明人間に近いものだ。だから、いない方がマシだと思っていた。
母が亡くなった時、父はその死に目にすら間に合わずに、ただひたすら仕事をしていた。こんな時まで他人の子供の方が大事なのかと、十歳らしからぬ思いを抱き、そして決意した。絶対に父親のような大人にはなるまいと。
そんな僕を引き取ってくれた祖父母は、亡くなるまで本当に良くしてくれた。彼らが本当の両親だったら良かったのになぁと思った事も少なくない。成人式を迎えて、新調したスーツに身を通した時、二人とも涙を流して喜んでくれた。そんな二人に大した恩返しができなかったのが、今でも悔やまれてならない。
こういう思いも加わっている為に、僕は教壇の上では立派な教師であるんだと身も心も引き締めた。
まだ家庭を持っていない若造だが、その代わり、目の前の生徒達を自分の子供だと思って、真摯に向き合おう。何があっても逃げ出さず、全身で受け止めてやろうと熱血めいた思いまで抱いていた。
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