第19話

「何が違うんですか」


 今度ははっきりと高志の表情が窺える。私の言っている事が理解できないのか、少し怒気を含んでいて眉間にシワが寄っていた。


「何が違うんですか、お父さん」

「もちろん、お前が教師失格なんたらの件がだ」


 それに臆する事なく、私は答えた。まさか、こんなふうに諭してやるのも初めてになるとは思ってもみず、本当に今日は初めてづくしになるなと頭の中で考えながら。


 私は言葉を続けた。


「高志。確かに私は長い事少年課に勤めてきたし、たくさんの子供達に出会ってきた。それこそお前とは比べ物にならないほどに」

「……」

「今のお前のように不安を感じたり、ましてや恐怖を抱くような事はなかったと思う。そんな暇があるくらいなら全身全霊で彼らに接し、解決に導いてやるのが務めだと思っていたからな。まあ、それでも、同僚の奴らには刑事らしくないとさんざん言われてきたが」

「うらやましいです。そうして働いてきて、無事に定年を迎えられたんですから」

「それもまた違うんだ」

「え…?」

「できれば何の悔いもなく定年を迎えたかったんだが、たった一人だけどうしても理解してやれなかった子供がいたんだよ」


 本来なら、いくら解決している事案とはいえ、元刑事の身分としては話すべき事ではないと思う。だが、これまでずっと溜め込んできたものを吐き出すのは、今しかないようにも思えた。


 そうだ。私はずっとこの事に対して愚痴をこぼしたかったに違いない。その相手が息子である事に心底安堵して、私は話し始めた。

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