第18話
「どうした?まだ傷が痛いのか?」
「いえ、そうじゃなくて…」
肩越しにちょっと振り返ってみれば、目が慣れてきてうっすらと色が薄くなった暗闇の中、高志のたくましくなった背中が貸してやった薄い掛け布団から少しはみ出している。
はっきりと見えた訳じゃないし、確信がある訳でもない。だが、私の目には高志の背中がずっと震えているように見えた。
「高志」
私は潜り込んでいた布団からゆっくりと身を起こし、身体を高志の方に向けながらその肩に手を置いた。私の手に、彼の震えがゆっくりと伝染してくる。
私は彼が落ち着きを取り戻せるように、極力ゆっくりとした口調で話しかけた。
「大丈夫か…?」
「…お父さんは、怖くなかったんですか?」
「何がだ」
「少年課に長年勤めていらっしゃったんでしょう…?」
高志がちらりと振り返ってきたが、その表情はまだよく見えない。だだ、彼が大きな不安を伴って話をしている事だけは充分に分かった。
高志が再び口を開いた。
「どうしてなんでしょう。今の今まで全然感じていなかったのに、急にあいつが…生徒達が怖くなってきたんです」
「……」
「あいつが何を考えているのか、これからどうしたいのか…どうすればあいつを助けてやれるのか…どれもこれもどうすれば上手くいくのか全く見当がつかなくて。下手すればまた同じ目に遭うんじゃないかって…そう思ったら、急に…!」
「高志」
「何もやってやれそうにない上に臆病風に吹かれ出した僕は、教師失格かもしれないと…」
「それは違う」
私ははっきりと言ってやると、高志の身体は弾かれたように私の方を向いてきた。
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