第15話

「少し痛いかも知れんぞ」


 そう言って一度断りを入れてから、消毒液を沁み込ませたガーゼを傷口に当てると、高志は小さな呻き声をあげ、まるで子供のように肩をびくっと震わせた。それを見て、私は今度はおかしくて笑った。


「これくらいの事が怖いのか?」

「いえ、思った以上にしみてしまって、つい…」

「情けない事を言うな。少なくとも、この傷を負った時はそんな事は微塵も思わなかったんじゃないのか?」

「え…」

「こんな所に傷を作ったという事は…お前は相手に対して腕を伸ばしていた。で、その相手はお前の腕を振り払う要領で切り付けてしまった、といった感じだろう」


 うっすらと流れ出た血を拭き取り、さらに清潔なガーゼと包帯を巻いてやりながら私はそう言うと、高志はまただんまりになった。だが、その表情は先ほどまでの頑固なものとは打って変わり、私に言い当てられてしまった事に対してどう返せばいいのかと必死に悩んでいる様が見受けられる。


 私は再び口を開いた。


「あくまで私の勝手な想像だ。だが、お前がそこまで必死になって腕を伸ばした相手だ。今更、そこらの酔っぱらいかチンピラにやられたなんて、見え透いた嘘だけはついてくれるなよ?」

「勘弁して下さいよ、お父さん…」


 私が包帯を巻き終えると、高志はふうと長い息を吐く。辛口の酒の名残の匂いが広がったような気がした。

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