第13話
「お父さん」
「どうした?今、水を飲ませてやるから待ってろ」
高志はまるで幼い子供のように首を横に振って、また私をじっと見上げた。
何か言いたげな表情であったが、酔いのせいでうまく言葉が紡げないのだろう。まるで池の中の鯉のように、口をパクパク動かす。
私はその場にしゃがみ込んで、高志の頭を一度だけ撫でてやった。
「無理するな。明日まで酔いが残ったら、生徒に示しが付かないぞ?」
「……」
「水汲んでくるから、その手を離してくれるか?」
なかなか離してくれそうにない高志の右手を、私はやんわりと外そうと試みた。だが、その間際に高志が捻るように身体を動かしたので、私は彼の手首より上の部分――Yシャツの長袖を掴み、そのまま滑るように捲り上げてしまった。
そして、見てしまった。彼の右腕に真新しい包帯が巻かれていて、うっすらと血が滲んでいるのを。私は思わず絶句してしまった。
「あ…」
これには高志も気付き、やっと私のズボンの裾を離した。そのままじっと自分の右腕を見つめ、真っ赤な顔で「ははは…」と掠れた笑い声を出した。
「もう大丈夫だと思ってたんですが、酒のせいでしょうか。少し開いちゃいましたね」
「…誰にやられたんだ!?」
「大した事ありません。三日前に、少し掠っただけなんですから」
「誰にやられたんだと聞いてるんだぞ」
「言えません…すみませんが、包帯とガーゼがあったら分けてもらえませんか?」
「高志!!」
「お願いします。聞かないでくれませんか…」
そう言って再び私を見上げてきた高志の顔は、ひどく辛いものであった。
それを見て、私は一つの可能性を思い付き、気付けばそれを口にしていた。
「まさか、生徒なのか…?」
高志は答えなかった。
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