第12話
それから一時間ほど、他愛もない世間話をしながら食事を進めていた。
だが、途中から高志の様子が少しだけおかしくなった。
始めこそは控えめに酒を飲んでいたのに、いつの間にか私よりペースが早くなり、気が付けば顔を真っ赤にして押し黙ってしまった。それなのに、まだ酒を注ぐ手は止まらない。
一升瓶の中身が切れそうになる頃には、彼は自らの姿勢をまっすぐ保つ事さえできなくなったようで、もともと一人用の小さなちゃぶ台にドンと額をぶつけてとうとう起き上がらなくなった。
そんな息子の体たらくを見て、私の酔いは逆にすっかり醒めた。初めて飲むのだから知らなかったが、きっとさほど強くはないのだろう。
シミだらけの壁に掛けている時計に目をやれば、午後九時を少し回ったところだ。
泊らせてやろうかと一瞬思ったが、彼はきっと明日も仕事だろう。
(タクシーでも呼んで、帰らせてやるか…)
楽しいひとときだったなと思いながら、私は空いたコップを手に取った。そのまま立ち上がり、高志に水を飲ませてやる為に台所へ向かおうとした時だった。
「お父さん…」
ふいに、ズボンの裾が軽く引っ張られる感触を覚えた。驚いて振り返ってみると、ちゃぶ台に伏せた姿勢のまま、高志の右手がそこを掴んで私をじっと見上げている。酔いが深い為か、声が少し掠れていた。
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