第11話
「お待たせしました。冷蔵庫にあった物を勝手に使ったので、これだけしかないですけど」
三十分ほど経って高志が小皿に盛って運んできたのは、私が二日ほど前に買ってきてそのまますっかり忘れていたほうれん草を使ったおひたしだった。
適度な大きさに切って茹でたほうれん草を鰹節と出汁醤油で和えただけの単純な料理なのに、高志が持ってきてくれた辛口の日本酒にとてもよく合った。
明日は人に会う約束をしているというのに、コップと箸を運ぶ両手はなかなか止まらない。まるで子供のように夢中になっておひたしを食べ続ける私に、高志はまたくすっと笑った。
「そう言えば」
自分のコップにも日本酒を注ぎ、おひたしを一口だけ口に運んでから、高志は言った。
「こうしてお父さんとゆっくり食事をするのは、きっと初めてですね」
「そうだな。お前が子供の頃に会っていた時は、どんなに食事時を選んでいても、大抵俺の方に呼び出しがかかってしまって、いつも慌てさせてしまっていたからな」
「だから嬉しいです。こうして僕の作った物を食べてもらえて、一緒に酒を飲める事が」
高志の言っている事は、間違いなく本音であろう。その口調に私を責める様は微塵も感じられず、むしろ照れ臭ささえあるようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます