第10話
再婚をする訳でもなく、仕事を終えれば後は眠るだけといった趣味もない男が住む一人暮らしの部屋など、住宅街の片隅にある古臭いアパートの一室でもあれば充分だった。
考えてみれば、ここ数年は誰も部屋に呼んでいない。久々に部屋に来た客人が息子になるとは露ほども思っていなかった私は、玄関の鍵を開けるなり、散らかしたままの古新聞や雑誌、万年床と化していた布団を慌てて片付けた。
「すまんな。適当に空いた所に座れ」
私が言うと、高志は車のトランクから引きずり出してきた一升瓶を片手に首を小さく横に振り、「いいえ、お構いなく」と苦笑いを浮かべた。
「…それより、台所を借りてもいいですか?簡単にツマミ作りますから」
高志は少し遠慮気味に玄関をくぐると、そのまままっすぐ台所に向かう。
基本的に出来合いの物しか買ってこない住人の台所などプラスチック製のゴミなどで溢れ返ってはいるものの、それ以外はきれいなものだ。
そんな私の生活が容易に想像できたのか、高志が背中越しにくすっと笑う声が聞こえてきて、私はとても恥ずかしくなったが、あえてそれに気付かないふりをしてやり過ごした。
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