第8話
靖子が亡くなってからも、高志は祖父母に育てられ、私は彼の成長の節目の時にしか会えなかった。
高志が生まれた時、こいつが二十歳になったら一緒に酒を酌み交わしたいなあと父親なら誰もが一度は見るであろう夢を抱いたものだが、彼が成人を迎えた時も、私はある事件を担当していて叶わなかった。
そうこうしているうちに、高志は大学を卒業して、いつのまにか中学校の教師になっていた。私が靖子と離縁した時と同じ年になった彼は、今は三年生のクラスを担当している。
彼をここまで育ててくれた義理の両親は、相次いで娘の眠る墓石の中に逝ってしまった。ろくに礼も言えず、またしても甘え切ってしまった事を私は悔やんでいる。
私は墓石に深々と一礼してから、持っていた百合の花束をそっと供える。それを見て、高志が言った。
「お父さん。それは定年のお祝いに頂いたものでしょう?」
「そうだな、だからこそ靖子にやりたいんだ」
余りにも希薄な関係を表すかのように、高志は私に対して堅苦しい敬語で話しかけるのが常だ。
本人に悪気がないのは分かっているし、そうしなければいられないのも分かっている。私はまた苦笑いを浮かべた。
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