第7話

靖子に下された診断は、癌だった。


 元々、それほど身体が丈夫ではなかった彼女が高志を生んでくれただけでもありがたかったのに、仕事の忙しさを理由に家庭から逃げていた私を気遣わせまいと、彼女は一人で無理をしていた。


 だから娘は癌なんかになったんだ。あんたみたいな男と一緒にさせるんじゃなかった。靖子も高志も私達が面倒を見るから、もう別れてくれ。


 自分の欠点を少しの狂いもなく述べられ、悲痛な声でそう言われてしまっては、まだ三十そこそこだった私には言い返す術が何もなかった。


 靖子と話し合う機会が一度だけあった。


 靖子は始めこそ離縁は絶対に嫌だとわがままを言う子供のように聞かなかったが、今のままでは高志の為によくないという両親の説得、そしてそれを私も承知している事を知ると、唇をギュッと噛み締めてようやく頷いた。その時の彼女の表情を、私は一生忘れる事はできないだろう。


 離縁から五年後。闘病の甲斐なく、靖子はこの世を去った。高志はまだ十歳で、数ヶ月に一度しか会いに来ない父親が母親の葬儀の列に並んだ時、悔しそうな目で睨み付けてきた。


 その時に思ったものだ。私は、父親失格なのだと。

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