第6話
私が妻の靖子(やすこ)と離縁したのは、高志が五歳の頃だった。
彼女には何の不満もなかった。取り立てて器量がいい訳でも、何かしら特別な才能があった訳でもなかったが、屈託のない笑顔と穏やかな性格が印象的な女性で、私が同僚を家に呼ぶと必ずうらやましがられた。
問題があったのは、私の方だった。仕事柄、忙しい忙しいと言い訳を重ねて、念願の息子が生まれたというのに、自宅に帰るのは風呂と着替えと寝る時だけが多くなった。
思えば、私には赤ん坊の高志を抱き上げた記憶が全くない。その当時は横行する少年犯罪への対応にひっきりなしになっていて、家庭を顧みる暇がなかった。
それでも康子は、私に不平や不満、愚痴の一つもこぼさなかった。私はそれを「刑事の家族なんだから当たり前の事だ」と思い、彼女に甘え切った。温かな家庭を作りたいという彼女のささやかな願いを、何年もないがしろにし続けていた。
靖子が幼い高志の目の前で吐血し、倒れてしまったのが離縁のきっかけだった。
靖子が倒れた翌日の夜に病院に駆け付けると、そのロビーで待っていた義理の両親は、私を仇でも見るかのような目で睨み、冷たい声で言い放った。「娘と別れてほしい」と。
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