第4話

私は、ははは…と苦笑しながら「それはまた来週あたりにでもしてくれないかな」と答える。すると、彼女は唇を軽く尖らせて「そんなぁ…」と小さな声を出した。


「皆も楽しみにしてるんですよ?」

「すまないな。明日、早くに出かけなきゃならないんだ」

「あら。もうお仕事されるんですか?確か、警備会社に再就職が決まったって…」

「それはそうなんだが、ちょっと違うんだ。人と会う約束をしてるんだよ」


 だから申し訳ないが、頼むよ。


 私がそう言うと、今野幸子は尖らせていた唇を今度は左右に広げて白い歯を見せた。


「分かりました、絶対ですよ。狩野さんとの飲み比べ、楽しみにしてますから」


 まるで悪戯を思い付いたかのような彼女の言葉に、私は言葉を詰まらせてしまった。




 関係各所に挨拶をして回り、夕方、皆に見送られながら東塚警察署を出れば、先ほどと何も変わらない春の日差しが私の身体にも心地良く降り注いできた。


 東塚警察署の正面入り口から数メートルもない場所にバス停があり、帰路を行くバスの到着時間が迫っていたが、この心地良い空気を味わわないのは非常にもったいないような気がして、歩いて帰る事に決めた。


 自宅まで徒歩で小一時間はかかるが、たまにはいいだろうと歩き始める。だが、十歩ほど歩いたところで、背広の内ポケットに入れていた携帯電話が突然鳴った。


 ポケットから取り出し、通話ボタンを押してから携帯電話を耳に当てる。すると「あ、お父さん。今、大丈夫ですか?」と聞き慣れた男の声が届いてきた。

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