第3話
私は、今日で定年を迎える。
二十五歳の時に警官から刑事に昇格し、様々な現場を経験した後、この東塚警察署の少年課に配属となった。
若い頃から、私は事あるごとに同僚の一人にこう言われ続けていた。
「お前ほど、警察官として似合わない男はいない」
始めは強面とは言い難く、身長は平均より高い方だが筋肉が付きにくい見た目の為にそう言われているのかと思っていたのだが、どうやら違っていたらしく、一度だけ続きを促してみた事がある。すると、彼は呆れたように息を吐き出してから、こう答えてくれた。
「優しすぎるんだよ、お前は」
そうなのだろうか。自分ではあまり自覚が持てない。だから今も、少年課の後輩達の間で、私についたあだ名が、何故「仏の狩野さん」などというのも分からなかった。
「あの、狩野さん…」
百合の花束の向こうで、今野幸子がワクワクとした表情で私に話しかけてきた。
「さっそくなんですけど、今夜はお疲れ様会という事で、一席設けませんか?私、いいお店見つけたんです」
若い彼女は居酒屋巡りが趣味らしく、それは他の仲間を押し退けて幹事までやりたがるほどだ。
そしてめっぽう酒に強いようで、ザルであったはずの課長との飲み比べに勝利した時に見せたいわゆるドヤ顔は、今、目の前にいる彼女と同一人物とは思えないほどだったと記憶している。
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