第一章 -狩野利通-

第2話

「狩野さん、長い間お疲れ様でした。これをどうぞ!」


 東塚警察署少年課が位置している一室で、実に和やかな空気が流れている。


 それは、春の暖かな日差しがいくつかの窓の向こうから降ってきているせいもあるだろうが、そう言って抱えていた大きな花束を差し出してきた勤務二年目の若い婦警・今野幸子(こんのさちこ)の柔らかな笑顔と口調がよりプラスになっているんだろう。


 そんな事を思うと、照れ臭さが顔面に滲み出てきた。差し出された先に立っていた私は、はにかみながらもゆっくりと花束を受け取った。


 途端に、周囲にいた何人かが惜しみない拍手をしてくれた。誰もが皆、温かい笑顔を向けており、口々に「お疲れ様でした!」「今までありがとうございます!」と労いや感謝の言葉を口に出す。その度に私は「ありがとう、ありがとう」と会釈をするので忙しくなった。


 もらった花束は、私が一番好きな真っ白い百合だった。


 いつだったか、皆と飲みに行った時、つい口が滑って、妻にプロポーズした時に白い百合を渡したんだと言ってしまった事がある。


 皆、きっとそれを覚えていてこれを選んだんだなと、私は百合の花束に少し顔を埋めて、かぐわしい匂いを確かめた。

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