第65話

「しまっ…」

「ゲームオーバーだなぁ、レッド・ティアーズの誰かさん」


 リュウジが立ち止まった事を確認できたのか、ナイフ使いの大きな声が聞こえてきた。リュウジは柱を背に、周囲を見回した。どこだ、どこから投げてくる!?


「安心しろ、一瞬で死ねるように全身くまなく刺してやるからよ!」


 走り回ったせいで、右腕の出血がひどくなってきている。先ほどより増した痛みと立ちくらみが、リュウジの身体を動かしにくくしていた。


「じゃあな!」


 ナイフ使いが持っているであろう無数のナイフを振り上げる気配を感じて、リュウジは「くそったれ…」と両目を強く閉じた、その時だった。


『リュウジ、奴は三時の方向にいる!その柱を左に沿って回り込んで避けるんだ!』


 すぐ耳元で、アジトにいるはずのナオトの声が聞こえた。そんなはずないと思ったが、リュウジは反射的に声の言う事を聞いて柱の左側に回った。


 すると、ナオトの言葉通り、三時の方向から無数のナイフが飛んできて、柱の右側に次々と刺さっていく。もしあのまま動かなかったら、本当に全身くまなくナイフまみれになっていたに違いない。


 リュウジはやっと思い出し、耳にはめていた超小型のインカムにそっと手を触れた。


「サンキュ、助かったぜナオト」

『しゃべっちゃダメだよ、リュウジ。これからはイエスの時は奥歯を一回、ノーなら二回鳴らして。分かった?』


 カチン。リュウジは奥歯を一回鳴らした。


『よし。リュウジ、もう少し頑張って。とっておきの作戦があるんだ』


 そう言ってからナオトは、数分後に起こす作戦について説明を始めた。

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