第64話

リュウジが走り抜けた後に、投げナイフは鋭く突き刺さっていく。


 時間の経過によって少し煙が薄くなり、壁や柱の位置がうっすらと見えるようになったので、行き止まりにぶつかって追い詰められるような事はなかったが、視界はまだ良好とは言えない。


 そして相手の位置が分からず、立ち止まる事もできずに走り回っている今の状況では、圧倒的にリュウジが不利だ。体力が底を尽いた瞬間、投げナイフは容赦なくリュウジの命を奪うだろう。


 走りながら、リュウジは考え続けた。


 何でだ、何であいつだけ俺の位置が正確に分かる?


 右腕を刺したから、その出血の跡を追ってるのか?いや、違う。だったら、それまでの攻撃の正確さの説明がつかねえ。


 まさか、サーモグラフィ内蔵の暗視スコープでも着けてやがるのか?それだったら、いくら足音を忍ばせていたって意味がない。


 いや、待て。もしそうだったら、さっきの頭突きの時に着けてる事くらい分かったはずだ。いくら小型化していようと、頭突きができるくらいの至近距離で分からないはずがない。


 そうだ。そういえばあいつ、こんな事言ってなかったか?足音がよく聞こえるって…。


 という事は、まさか…。おいおい、冗談だろ!?


 そこまで考えた時、右肩に何かがぶつかった。見上げると、それは先ほど目印にしようとしていた柱だったのだが、そのせいで走り回っていたリュウジの足がぴたりと止まってしまった。

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