第62話

「さっきからどんだけ頭を振ってんだ?あんまりやってると、ただでさえ足りない脳みそがなくなっちまうぜ」

「うるっせえ~!!」


 安い挑発の言葉に乗ってしまい、リュウジは声が聞こえてきた大体の方向に向かって二発、三発と撃った。そのうちの一発がホールの一角に飾られていた何かしらのインテリアを撃ち砕く音が甲高く響く。


「どこ狙ってんだよ、下手くそが」

「なっ…!」


 今ので仕留めたとは思っていなかったが、リュウジのすぐ横にぬっと現れた気配に、彼は驚きを隠せなかった。そして次の瞬間には、さっきのサバイバルナイフがリュウジの両目を狙って襲ってきた。


「くっそ…!」


 構えていた両腕を軌道修正させ、自分の真横を狙って一発撃った。ナイフ使いの「うっ…」という動揺の声はしたものの、それでも彼は諦めなかった。狙いをリュウジの両目から右腕に変えて、サバイバルナイフを突き立てたのだ。


「ぅ、ああぁぁぁぁ~~~~!!」


 途端に、焼けつくようで鋭い痛みがリュウジの右腕から脳へと伝達され、たまらず叫び声をあげた。それでも心まで折れなかったのは、脳裏に“ある人”の顔が浮かんだからだ。


 そうだ。俺はこんな所で、こんなふざけたテロリスト野郎に…。


「殺られる訳にはいかねんだよぉ!」


 痛みを堪え、リュウジは背中を思いっきり反らせる。そしてそのまま、サバイバルナイフをさらに深く突き立てようとした男に向かって頭突きを見舞ってやった。

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