第60話

「うっ…わあぁぁ!」


 殺られる!そう思った瞬間、リュウジは懐から拳銃を取り出し、グリップを前に突き出していた。


 その反射神経が幸運だった。リュウジに迫っていたサバイバルナイフの切っ先がグリップに当たり、そのまま止まったので、彼の首は切り裂かれるのを免れた。


 もし反応できていなかったら…そう考えただけで、リュウジの背中に冷や汗が流れる。リュウジはギリッと歯ぎしり一つすると、自分の肩を掴んでいる者の腹にめがけて蹴りをぶつけた。


「馴れ馴れしく触ってんじゃねえよ!」

「おっと!」


 リュウジの蹴り上げた右足はあっさりとかわされ、それと同時にグリップと拮抗していたサバイバルナイフも離れた。


 リュウジは舌打ちしてから、今一度体勢を立て直そうと辺りを見回した。


 このビルに来る前に、各階の間取りや構造は全部頭に叩き込んだつもりだ。確か一階の東端に、ビルの電源管理ルームがあったはず…。


『いいか、リュウジ。こんな大それた真似ができるんだから、奴らには十中八九、強いハッカーがいる。だとすれば、そいつがいるのは…』


 ユウヤの言葉を急に思い出してしまって、つい頭を軽く振る。分かってるっつーの、電源管理ルームの隣の部屋だろ。

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