第58話

「…ひでえ、何て事しやがんだ」


 裏口から一歩ビルの中に入ってすぐ、リュウジの口から出た言葉がそれだった。


 数人の警備員が抵抗も反撃も…そして逃走する隙も与えられずに射殺され、その死体が転がっている。


 眉間を一発で撃ち抜かれているだけの者もいれば、全身を撃ち抜かれて蜂の巣状態になっている者もいる。皆、無念の表情で息絶えていた。


 リュウジは、自分が手にかけてしまった恩師・鈴木利治を思い出した。


 金属バッドで彼の頭を殴った感触は、いつでも昨日の事のように蘇ってきて、その度にどうしようもない気持ちになるというのに。


「『キリング・アーミー』…ここまでして、何にも感じねえのかよ」


 警備員達の死体に一礼してから、リュウジは再び歩きだした。


 ビルの一階は、しんと静まり返っていた。リュウジのブーツが一歩を踏みしめる度に、カツン…と空気中に響き渡る。


 それに気付いたリュウジは、踵から落とすような歩調に変える。そして、まずは一階ロビーの中央にある柱を目指そうと思った。


 アジトを出る時に決めた役割は、しっかり頭に入っている。ユウヤが宗一郎を連れて『キリング・アーミー』のボスと会っている間に、俺はこのビルを支配した気でいるハッキング野郎を…。

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