第54話

「こいつを連れていけ。そうだな、さっきの山岸とかいう死にかけの奴の病室にでも入れておけ」


 ボスは紗耶香の胸元を突き飛ばすように押して、ゴールドに渡した。その時、ゴールドが小さく「くくく…」と笑うのを紗耶香は聞き逃さなかった。


 紗耶香は勇気を振り絞って言った。


「あ、あなた達が何を企んでいても、それが叶う事はありません。お祖父様とお兄様が…絶対に助けてくれますから!」

「ふん、どうだかなぁ。ここに来れないくらいに腰抜けかもしれないぞ?何せお前のお兄様は…っ、何だ!?」


 話してる途中で足に違和感を感じ、ボスは足元を見る。すると、先ほど自分が右肩の関節を外してやった若い刑事――須藤が、俯せに倒れたままの体勢から、左手でボスの足を掴んでいた。


「取り…消せっ!高明のっ…悪口…ゅるさない…!」


 冬だというのに須藤の顔は脂汗を大量にかき、しかめ面になったままだ。それに気付いたボスは、「ほう…」と息が抜けるような声を出した後、思いきり須藤の右肩を踏みつけた。


「…っ!!うああぁぁ~!」


 須藤はかっと目を大きく見開き、悲痛の声をあげる。その叫び声に周囲の老人達は怯え、紗耶香はじたばたともがいた。


「大和さん!?大和さん!!」

「まだ気絶しないとは大したタマだぜ。ゴールド、その女も早く連れていけ。あの裁人の奴はちゃんと連れていったんだろうな?」

「バッチリっすよ」


 ゴールドの返事に、ボスの口端がゆっくりと持ち上がった。

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