第52話

「そういう訳だ、轟木さん。あんた達はここから動くな」


 ユウヤは拳銃を宗一郎の背中に戻し、「センターの中に入れ」と促す。口を真一文字に結んだままの宗一郎が一歩を踏み出すが、轟木は退かなかった。


「ま、待てっ!」

「しつこい。あんたには根岸さんや『委員会』と同じ扱いはしたくない、下がってくれ」

「本郷様を…奴らに渡すのか!?」

「さあな。だが、リ・アクトを生み出した最低な男でも、孫娘や無関係の人間が傷付くのは嫌らしい。俺やあんたと同じように」

「ユウヤ…?」

「国から見ればテロリストである俺が言うのもなんだが…約束する。これ以上、人質は傷付けさせない。あんたの相棒も必ず取り返してやる」


 そう言うと、ユウヤは宗一郎と共に再び歩き出した。轟木にはもう止める言葉すら出てこず、自分の横を通りすぎていく彼らを目で追うしかできなかった。


「リュウジ、裏口はあっちだ」

「ああ、また後でな」


 入り口に入る直前、ユウヤは空いた左手でセンターの横の路地を指差した。リュウジはそれを確認すると、少し身を屈ませるようにして路地の中へ走っていく。リュウジの姿が見えなくなると、ユウヤは小声で宗一郎に言った。


「お祖父様、震えてるようですが…」

「違う、怖いからではない。ワシは奴に会わねばならんのだ」

「でしょうね。俺から絶対に離れないで下さい」


 そうして二人は、ゆっくりとセンターの中に入っていった。

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