第48話

それは、轟木が初めて彼と対峙した時と似ていた。


 黒いコートをなびかせ、一歩一歩踏み締めるように悠然と歩いてくる。あまりにも堂々と、そして美しく歩いてくるその姿に、その場にいた者全てが魅了されてしまったかのように動けなかった。


 違っていたのは、ユウヤの側に人がいた事だ。一人はユウヤのすぐ後ろに立っていて、緊張の面持ちで耐えず周囲に気を配っている――リュウジだ。


 そしてもう一人は、日本大国の国民なら誰もが知っていなければならない顔だった。彼はユウヤの前を歩いていたが、その背中をユウヤが持つ拳銃の銃口が狙っていた。


「ほ、本郷宗一郎様…!?」


 誰もがそうだろうが、轟木は動揺を隠せなかった。


 立てこもり事件が始まってわずか数時間で、日本大国の元トップを連れてくるなんて、レッド・ティアーズは、いや、ユウヤはどこまで力を持っている…!?


 しかも拳銃を突きつけている辺り、まともな連れだし方ではなかったはずだ。一体、どうやって…?


 だが、轟木の思考はここで邪魔された。沈黙されたその場の空気を、根岸の下品な笑い声が掻き消したのだ。


 根岸は部下逹から素早く離れると、なお進もうとするユウヤの目の前に立ち、実弾が入った拳銃を構えた。

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