第43話

「あ~あ、高そうなのにもったいねえなぁ。でも…」


 ヒュウと口笛を一つ吹いてから、リュウジも持っていた拳銃を宗一郎に向けて構えた。


「俺もユウヤと同意見なんでね。頼むぜ、じいさんよ」

「人にものを頼む態度とは到底思えんが、まあよい。さあ、行くぞ…」


 二人を一瞥してから、宗一郎はしっかりとした足取りで先に部屋を出る。廊下には、妹尾を始めとした執事達が深々と頭を下げて主人を待っていた。


「妹尾」


 妹尾のすぐ目の前で足を止め、宗一郎が言った。


「今夜の夕食は、全て紗耶香の好物を用意してやれ」

「はっ、心得ております」

「頼んだぞ」


 ちらりと妹尾を見て、宗一郎は微笑みを浮かべる。この時、妹尾には何か不吉な事が起きるような気がしてならなかった。


 それでも妹尾は、宗一郎が玄関へと向かっていく姿を黙って見送った。旦那様は十五年前に覚悟を決められたのだ。自分はそれに従うまで…。


 その代わりとでもいうように、妹尾は続いて出てきたユウヤとリュウジの側に寄って、耳の中に収まる超小型のインカムを差し出した。


「お二人とも、これを。今、ナオト様がハッキングを展開しております。何か進展があれば、それでご連絡しますので…」

「ああ、サンキューな」

「妹尾、ナオトのフォローを頼む」


 二人はインカムを耳に装着すると、悠然とした足取りで廊下を進んでいった。

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