第38話
榎木新一の“遺書”を持つ手がブルブルと震えた。直人がその事に気付いた時、彼の両目からは涙がとめどなく溢れていた。
「分かっただろう?榎木新一は、寛人さんを殺した事を悔いて自殺を図った。その上でお前に会ったりしたら、余計に彼を追い詰める事になる」
ユウヤの言葉に、直人は袖で乱暴に自分の涙を拭う。ひっくひっくとしゃくりあげてしまい、うまくしゃべる事ができないが、かえってその方が良かったかも知れない。今、何をどう言っていいのか分からないのだから。
「直人。彼の心のケアは、これから委員会が全力でやるだろう。だから、もう何も気にせず、お前は今本さんとB国へ行け」
ユウヤが言った。
「リ・アクトは間違っている。いい事なんて一つもない。加害者も、そして裁人の方にも悲しみを増やすだけだ」
「ユウヤ、さん…」
「悲しみの連鎖を断ち切る。その為に、俺達は戦う。お前の悔しさ、俺達に預けてくれ…」
†
「…妹尾さん、僕は後悔してないんだ。あの時、B国に行かなかった事。こうして、ユウヤさんと一緒に戦う道を選んだ事を…」
寛人との思い出が残るノートパソコンを前に、ナオトは集中力を高めようと深呼吸する。今はただ、自分にできる事を成し遂げたかった。
そんなナオトを、妹尾は優しい笑みを浮かべて見つめていた。
「終わったら、今本様にお電話なさいますか?」
「うん、きっとまた怒られるんだろうな。“父さん”、国際電話なのに説教長いんだもん」
両手をキーボードの上に構え、ナオトの目がすうっと画面を捉える。今、自分にできる事をする為に。
「覚悟しろ、キリング・アーミー…」
そう呟いた次の瞬間、ナオトの指はすさまじい速さでキーボードを叩き始めた。
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