第35話

『委員会様へ


 突然の事で大変申し訳ありませんが、私、榎木新一はこういう道を選ばせていただきました。


 それというのも、私は非常に罪深い事をしでかしてしまいました。あなた方や裁判所をだまし、世間の同情を買って、自分勝手な復讐を遂げたのです。それをここに記します。


 あの日、確かに犯人である遠藤寛人は我が家に侵入しておりましたが、殺意を持って、妻を突き落とした訳ではありません。彼は何度も、何度も「ごめんなさい」と謝っていました。その上で、妻は階段から落ちたのです。今ならはっきり言えます。あれは殺人ではなく、事故だったと。


 ですが、当時の私は妻を、そして生まれてくるはずだった子を失った怒りとやるせなさに完全に支配され、犯人を自らの手で葬りたくてしょうがなかった。だから、嘘の証言をしました。妻は遠藤寛人に突き落とされ、殺されたと。


 遠藤寛人が否定しないのをいい事に、私は彼に対する殺意を膨らませ続けました。そして、ついにリ・アクトを遂げようとした瞬間、彼の口からこんな言葉が聞こえてきたのです。


「直人、どうかお前だけにできる事を見つけて、生きていってくれ」と…。』

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