第34話

「あっ…ユ、ユウヤさ…」


 ユウヤの訪問に我に返ったのか、今本は慌てて顔を拭いながら立ち上がる。そんな今本に、ユウヤはコートの内ポケットからハンカチを一枚取り出して渡した。


「よかったら、これを。新品です」

「す、すみません…あの、裁人の人は…?」

「安心して下さい。発見が早かった事も幸いして、処置は無事にすみました。麻酔が効いている間に、俺の仲間が彼の自宅近くの病院まで送る手はずになってますから」


 ユウヤの言葉に今本とオガはほっと胸を撫で下ろしたが、直人だけは違っていた。慌ててベッドから降り、病室の外へ飛び出そうとするが、そんな直人の腕をユウヤが強く掴む事で制した。


「どこへ行く気だ」

「離して!僕はまだあの人に用があるんだよ!」

「残念だが、もう榎木新一に接触しない方がいい。俺が派手に動いたせいもあるが、お前を乗せたタクシーの運転手が、今頃『委員会』に証言してるだろう。お前の顔をこれ以上知られると、全てがムダになる」

「そんなの、どうでもいいよ!僕はあの人から話が聞きたいんだ!どうして兄さんの言葉を知ってるのか、どうしても聞き出したいんだよ!」

「…それなら、これに書いてある」


 そう言うと、ユウヤは先ほどとは別の内ポケットから、透明のビニール袋に入った便箋を取り出した。

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