第33話

「ごめんなさい、先生…」


 痛む胸を押さえながら、直人は頭を下げた。その手が小刻みに震えてるのを見て、オガが静かに首を横に振った。


「もう何も心配する事はないのですよ、直人君。君が持っていた紐のおかげで、榎木さんは命拾いしたものなんですから」

「違うよ、オガさん。僕はあの紐で榎木さんを…」

「不思議なものですねえ。命を奪う為に用意していた物が、命を救うなんて」

「……」

「私は昔、人を追い詰める事しかしてきませんでしたが、今はそれを逆に利用して、情報を得ています。そして、ユウヤ君と一緒にリ・アクトを阻止しているんです」

「……」

「あの時、君は正しい選択をしました。君は医者になるべき人間ですよ、直人君」


 オガはそう言って微笑んだが、直人は静かに目を伏せて悩んだ。


 本当にそうなのだろうか?


 あの時、榎木新一を助けたのは、彼が寛人の言葉を呟いたのが気になったからであって、本当はまだ憎しみが燻っているんじゃないのか…?


 自分で答えが出せない悩みに耐えかねて、直人の両手がベッドのシーツをギュッと強く握りしめる。その時、病室のドアが二度三度ノックされ、ユウヤがゆっくりと入ってきた。

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