第32話
†
「この…バカ!」
一時間後。施設の病室で、今本の怒鳴り声と共に、パァンと弾けるような音が響き渡った。
その病室のベッドの上にいる直人の右頬が、みるみるうちに赤くなっていく。あまりの事に言葉が出ず、横を向いたまま、彼は呆然としていた。
そんな直人を再び殴ろうと、今本が手を上げる。一度目は見守っていたが、二度目はさすがにまずいと感じたのか、オガが慌てて二人の間に入った。
「落ち着いて下さい、今本さん。乱暴はいけません」
「どいて下さい、オガさん!こいつは…直人は、もう少しで取り返しのつかない事をしてしまってたんだ…直人!何で裁人を殺そうだなんてっ…うぅっ…!」
直人がしでかそうとした事の恐ろしさと、それでも無事に帰ってきてくれた喜びが入り雑じって、今本はその場に崩れ落ちるとおいおい泣き始めた。
恥も外聞も捨てて、子供のように嗚咽を漏らして泣く今本を見て、直人は今更ながら胸が痛んだ。
もし、自分が本当に榎木新一を殺してしまっていたら、先生をもっと泣かせていたに違いない。誰よりも自分を心配してくれる、新しい家族のこの人を。
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