第31話
「榎木さん!?」
ユウヤは抱えていた榎木新一の身体を脱衣場まで引っ張り、そこに横たえさせた。まだそれほど血の気も引いてなく、呼吸も少し間隔が短いものの、ちゃんとできている。自殺を図ってはいるが、発見が早かったようだった。
「…と、…けに…、きて…」
意識が混濁しているのか、榎木新一はうわ言のように何かを呟いている。非常にゆっくりと、途切れがちなそれを何とか聞き取ろうと、ユウヤは耳を彼の口元に寄せた。すると。
直人、どうかお前だけにできる事を見つけて、生きていってくれ。
ユウヤが榎木のうわ言をそう繰り返した瞬間、直人の目が大きく見開かれた。
何故、この裁人が僕の名前を知っている?何故、兄さんが以前言ってくれた言葉を、この裁人が知っている!?何故、この裁人はその言葉を呟きながら死のうとしているんだ…!?
たくさんの疑問が頭の中を完全に占めた時、直人は行動を起こしていた。これで榎木新一を絞め殺してやろうと用意していたはずの紐を、彼の傷付いた左手首にしっかりと巻き付けて止血を試み始めたのだ。
「…死なないで、死なないでよ!何か知ってるんなら、それを僕に教えてくれよ!頼むよ、榎木さん!」
半泣きになりながら榎木の手当てをする直人の様子を見て、ユウヤはふっと微かに笑みを浮かべる。そんなユウヤの手には、透明のビニール袋に入れられた縦型の便箋があった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます