第28話

高級車が榎木新一宅に着いたのは、それから五分も経たない頃だった。


 着くやいなや、ユウヤはすぐに運転席から飛び出して門扉をくぐろうとするが、そこで目にしたのは、無造作に開けっ放しとなっている玄関のドアだった。


 しまった、と思った瞬間、心臓の鼓動が速くなった。遅かったのかと、思わず息を飲む。


「…っ、オガさん!やはり間違いなかった、行こう!」


 一度門扉から離れ、ユウヤは高級車の元へ引き返す。だが、助手席の方に回って見てみれば、オガの顔色が少々悪くなっており、それを隠すように彼は片腕を顔に寄せて覆っていた。


「…すみません。君の倍以上は生きている老体ですから、あのスピードにどうも酔ってしまったみたいで…」

「分かった…ごめん、オガさん。じゃあ、ここで見張りを頼む」

「了解…です」


 オガの返事を聞き取ると、ユウヤは再び門扉に向かって駆けた。


 開けっ放しの玄関の前に立ち、その向こう側を見る。奥へと伸びる廊下に一人分の裸足の足跡が転々と続いていた。


 直人は部屋の窓から逃げたと聞いた。おそらく、靴なんか履いていないだろう。ならば、これは間違いなく…!


 そう思ったユウヤは土足のまま、家の中へと急いで入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る