第27話
一台の黒い高級車が、住宅街へと向かう二車線道路を疾走していた。
制限速度が四十キロと定められているにも関わらず、高級車は倍の八十キロ近いスピードで走っている。
おまけに赤信号も無視して無理矢理突き進んでいくので、周囲の車は急ブレーキをかけてはぶつかりそうになり、その度にクラクションのけたたましい重奏曲が始まった。
五回目の信号無視をした時、ついに耐えかねたのか助手席に座っていたオガが少し大きめの声で言った。
「ユ、ユウヤ君!いくら急がなくてはならないといっても、もう少し安全運転を…」
「俺達の安全より、今は榎木新一の無事が最優先だろ、オガさん」
「それはそうですが…大体、本当に直人君は榎木新一の家に行ったんですか!?もしそうじゃなかったら…」
「ほぼ間違いなく向かってる。俺が昔、そうしたように」
ユウヤには確信があった。自分もあの日、直人と同じ思いをし、行動に移した。自分の大切な人を奪った元凶を、この世から抹殺しようとしたのだ。だから、直人もきっと。
「飛ばすぜ、オガさん!」
ユウヤがさらにアクセルを踏み込む。スピードが一気に増した高級車の動きに耐えきれず、オガは「ひぃぃ…」と、細長い声を絞り出し続けていた。
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