第26話

タクシーは、ある住宅街の一軒家の前で止まった。


 直人は財布ごと運転手に強引に突き出すと、そのままタクシーを降りて一軒家の門扉をくぐった。


 今の時代、リ・アクトの情報なんて端末さえあれば、どんな事でもすぐに調べがつく。


 直人は、家の表札に書かれてある文字を頭の中で再読した。


(榎木新一、榎木新一…間違いない!)


 直人は上着の内ポケットから、一本の紐を取り出した。施設の病室の窓から逃げる際、ベッドのシーツを噛みちぎって作った紐だ。これで絞め殺してやる、直人はそう思った。


 兄の寛人が犯した罪を肯定も支持もするつもりはない。だが、榎木新一の奥さんとおなかの子供を死なせたのは悪いと思いつつも、彼が寛人を殺した事にも変わりがない。


 だから、どうしても許せなくなった。あんなに優しかった兄さんを殺した奴が…!


 直人は、表札の下にあるチャイムのボタンをゆっくりと押した。ピンポーン…、無機質な甲高い音が響く。だが、誰も出てくる気配がなかった。


 直人は不審がりながら、玄関のドアノブを握った。すると鍵はかかっておらず、すんなりと開いてしまった。


 直人は驚きながらも、これは千載一遇のチャンスだと考え直し、ゆっくりと中に入っていった…。

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