第25話
「あ、あの~、お客さん。どちらに行きますか?」
「……」
「お、お客さん?」
「…貸して」
「はい?」
「携帯貸してって言ったの。ほら、早く!」
苛立たしげに片手を伸ばし、運転手が持つ携帯電話を貸せと少年は何度も詰め寄る。元々の気弱な性格のせいで、運転手は自分より一回り以上も年が離れている少年の焦れた言葉に怯え、一度タクシーを停めてからそれに従った。
運転手が集金ポーチの中から出してきた携帯電話を使って、少年は何かを調べているようだった。運転手はそれを肩越しに恐々と見つめていた。
五分程が過ぎると、少年は首を少し仰け反らせて長い息を吐いた。それから運転手に目を向けると、軽く頭を下げてから「ありがとうございました」と携帯電話を返した。
「今から言う住所に行ってもらえますか?」
「あ、はい…でも…」
「お金ならあるから、大丈夫です」
そういう問題じゃない、これはどうも訳ありの客を乗せてしまったようだ。とりあえず目的地まで送って、その後は無線で上司に指示を仰ごう…。
そう思いながら、運転手は再び俯き加減になった少年――直人をバックミラー越しに見つめた。
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