第22話
「これくらい、どうって事はない。直人君の心の痛みに比べれば」
ユウヤは差し出された濡れタオルを拒み、妹尾の横をすり抜けようとする。彼の頭の中を占めていたのは、あの時の直人の目だった。
二時間前、兄の死と自分が助かった本当の理由を知り、直人の目に恐ろしいものが宿ったのをユウヤは見た。ひたすら「殺してやる!」と叫び、骨壺を抱いたまま飛び出そうとする直人を、ユウヤはもちろん、施設の看護師や職員数人がかりで抑えた。その時、直人はユウヤの左頬を殴り、叫んだ。
「どうして兄さんを助けてくれなかったんだ!?兄さんを返せよ!」
直人はその場で速効性の鎮静剤を注射され、眠りに落ちていった。少々乱暴だが、そうでもしなければ何をしでかすか分からない。
いや、違うな…。
ユウヤはわずかに頭を横に振って、自分の考えを否定し始めた。
「直人君にあんな目をさせたのは、まぎれもなく俺だ。俺が無理矢理にでも寛人さんを助けていれば…」
「ぼっちゃま、決してそんな事は」
「ないと、言い切れるのか?その結果、せっかく命が助かっても直人君は憎しみに捕らわれ出してる。それじゃ意味がない…あんなんじゃ、昔の俺と変わらない…」
ユウヤの手から力が抜け、空となった拳銃がゴトリと落ちた。それを追うように、妹尾は目を伏せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます