第19話

「せ、先生…!?」

「な、直人…寛人君は…」


 辛うじて持っているトレーを落とさずにすんでいるものの、椀の中の味噌汁が半分近くこぼれてしまっていた。今本のそんな様子に、直人の心にあった疑惑は別のものへと変化していく。


「先生、どうしたの…?まさか、兄さんに何か…」

「……」

「何で黙ってんだよ…ねえ、教えてよ!先生!」

「…それ以上、今本さんを困らせないであげてくれ。直人君」


 突然聞こえてきた知らない声に、直人の身体がビクッと震える。見ると、ドアの所に黒ずくめの格好にグラサンをかけた若い男が立っていて、直人をじっと見つめていた。


 男が言った。


「今本さんは充分苦しんだ。だから、君まで追い詰めちゃダメだ」

「な…だ、誰ですかあなた!?」

「俺は、レッド・ティアーズのユウヤだ…」

「えっ…!?」


 直人は言葉を詰まらせた。何で日本大国に反旗を翻しているようなテロリストがこんな所に…?


「兄さんに、会いたいのか…」


 何も言えなくなった直人に、ユウヤは少し辛そうに声をかける。直人がその言葉にゆっくりと頷くと、ユウヤは彼の方に手を伸ばしてきた。


「俺は、あんなに勇気がある人を他に知らない。君の兄さんは素晴らしい人だった…」

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