第18話

「直人、起きたのか?」


 とんとんとドアをノックする音にはっと我に返れば、トレーに朝食の皿を載せてきた今本がそこに立っていた。


 手術が終わってから今まで、今本はずっと直人の看病をしていた。手術の傷が痛めばずっと腹を撫でたり、「頑張れ直人、負けるな!」と涙声で励ましてくれた。彼がいなかったら、きっと一人では乗り越えられなかったに違いない。


 だからこそ、今本に聞こうと思った。このモヤモヤとした疑惑を晴らすには、それしかない――。


「今日の朝食は豪華だぞ、直人。診察もあと二、三回で終わり…」

「先生、話があるんだけど」

「ん?何だ、直人…」

「兄さんには何て伝えてるの?僕の移植の事」


 なぜ寛人の名前を出したのかは、直人は自分でも分からなかった。


 だが、そう言えば今本が全て話してくれると思った。そして、自分の想像はただの考えすぎだと笑ってほしかった。


「兄さんに、僕がここに移ったって知らせた?ドナーが本当に死んでないなら、きっと兄さんもお礼が言いたいって思うだろうし…、他にもいろいろ報告したいんだ」

「……」

「兄さんの声、もう何ヵ月も聞いてないし、自分で言おうかな。先生、兄さんの出張先の電話番号…」


 途中まで話し続けていた直人だったが、ちらりと今本の顔を見た瞬間、言葉が止まってしまった。彼の顔色が真っ青になり、カタカタと細かく震えだしたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る